【供物*上】

***


みたしゃんせ。
満たしゃんせ。

我らが神の、贈り物。



【供物。】



小さな小さな人里はなれた集落の村では
それぞれに独特の神を祭り上げる。

この村もまた、ソレは例外ではなった。














途方にくれるように沈む夕日を
ただただ見つめる娘がおりました。。。

「リンちゃん。」

不意に娘は名を呼ばれ振り返ると
力なく笑いかえしました。


「・・・相手、見つからなかったの？」
「・・・うん。。。」


力なく頷くその後ろでは
着々に祭の準備が行われていた。

日が沈みかかるこの村では
今宵は年に1度きりのお祭。

田畑の豊作を神に願うための祭・・・
だが、もう一つの理由がこの祭にはあった。



「大丈夫、いざとなれば一晩森を逃げればいいんだから！！」
「・・・でも。。。」

「私、足は速いのよ？」
「・・・りんちゃん。」

だから、心配しないで？と娘は笑って見せるのだ・・・
彼女の表情は暗くなるばかり
娘も解っている。

自分の足で一晩あの森を
逃げ続けることは出来ないことくらい。。。


「ミク姉、心配しないで。
　私に何があっても・・・きっと」
「私が、イヤよ！！
　リンちゃんに何かあったら嫌よ！！！」


綺麗な祭り用の着物を握り締めて
まるで自分のことの様に
ハラハラと泣き出す彼女を見て
どうするればいいのか娘も解らない
それでも、夜は次第に空を染めてゆく


「ミク姉・・・ありがとう。
　でも、折角おめかししたんだから・・・泣いちゃだめだよ？」
「嫌、嫌だよ・・・」

「ミク？りんちゃん？」


不意に聞こえた声に2人が思わず視線を向ける

「カイト兄・・・」

「どうしたんだい？・・・ミク？」
「っ・・・カイトさん」

うわぁぁんっと彼に彼女は抱きすがる
一体何が起きているのか解らない彼にとっては
ただ狼狽するだけでまったく持って情けないお話。

「あのね・・・ミク姉私のことで泣いてくれてるの。。。」
「リンちゃん、の？・・・あ！
　まさか、リンちゃん！？！」

不意に彼の表情も変わる。

「だって、リンちゃんまだ15にはなってないじゃないか！！」
「・・・でも、私親いなし？だから」

「だからって。。。」

そう言っている最中
夕闇の中村の中心の松明に灯が灯るのと同時に
盛大に太鼓や笛の音が響いてくる・・・



供物祭の始まり・・・そう、言わんばかりに。。。





「さぁ、始まったわ・・・
　私のことは心配しないで、本当に平気よ？」

そう言って娘は笑って2人の背中を押した。
躊躇いがちに名残しそうに
2人が娘を見るのだが

・・・娘は笑って



「2人はちゃんと幸せになって欲しいんだから・・・リンは。」



彼女は、娘の下に戻ろうとしたが
・・・娘はソレより先に2人背を向けると勢いよく森へと走り出した。




「リンちゃん！！」














そう呼ぶ声に、娘は振り返らなかった。

本当は恐かった。
今にも泣叫びそうな位恐くて仕方ない。
でも、それでも彼女の前でそんな泣き言吐くわけにはいかない。
そんなことを言えば
彼女は自分と変わると言い出しかねない

ソレはできない。


・・・だって、本当に幸せになって欲しいと思っているのだから。


走った。
小さな枝が肌を切りつけても
後など考えずに・・・走り続けた。

今は走ることしか、出来ないから。。。






















祭囃子が、遠くなってゆく。

田畑に豊作を願うために
村に繁栄を願うために

差し上げましょう
差し上げましょう



　　　私は知ってる。


今年の、供物を。。。


　　　神様なんて、いないのに。。。。



今年もこの村に、豊作をお与えください。。。

【ｎｅｘｔ】